思い出話~その2~
今でこそインターネットが普及していますが、昔はパソコン通信と呼ばれていて、アサヒネットやニフティサーブ、時には地方の草の根ネットが主流であった時代がありました。回線も電話がメインで、それも2400bps~14400bpsというレベル。今の光だと一般に100mbpsと言われていますから、単純に1万倍くらいの速度差があったわけです。しかし、そこでのやりとりは、当時ゲーム雑誌や友人間のやりとりがメインであった人間にとって、まさに「未来の情報源」だったのです。
餓狼SPでリュウを出す方法、初めて出た一人の豪鬼に数千円みんなでやられまくったこと。鉄山こうやトウキックスプラッシュ。今風に言えば
「マジやばい!」
日本のどこかで誰かが見つけた情報が、書き込まれた直後には共有され、実戦に活かされる。どうしても解けない謎に直面し、自力ではもう一週間も足止めを食らっていたのに、もしやと思って質問してみれば、その1時間後には返答があって、あっさりと先に進める。時にはタイムを競ったり、時にはとことんまでやり込んでいったり。顔も本名も知らない友人たちと協力して、ちいさなメダルの最後の一枚を見つける。ミサイルタンクをリストアップする。敵の落とすアイテムの穴を埋めていく。
今、本当に当たり前のようにやりとりされている情報の黎明期。以前どこかで書いたかも知れませんが、自分の好きな話があるので、それを書いてみようと思います。
●初めてチャットをした日
当時僕はナムコミュージアムのイシターの復活をやり込んでいた。どの敵をどれだけ倒してレベルを上げるだの、このルートは効率が悪いだの、当時のゲーム雑誌片手にダラダラとカイを動かしていた。そんなある日「ファミコンのドルアーガのように裏面があるんじゃないか」という噂がNIFに流れ始め、以来僕らはそれを見つけるためにいろんなことを試し、いろんなマップを奔走したりするようになる。
当然なかなか見つからなかったが、1週間ほどしてリーダー格のオニキスさんが、「今日絶対見つける。一緒に探してくれる人は○○時からチャットで」。僕はそれまで一度もチャットをしたことがなかった。キーボードはかなり叩いていたが、自分の周りに同じようにNIFをやってる人はいなかったし、リアルタイムで流れるチャットの速度に、自分がついて行けるか、非常に不安だった。でもその「裏面」という情報は、当時どの雑誌にもなく、文字しか見えなくとも目の前のメンバーは、これ以上ない心強い人たちばかりだったので、「タイプ遅いですが、末席に・・・」と僕も加えて貰うことにした。
チャットが始まって、多くのメンバーはPCとテレビを同時に操作している。「これは試した?」「ここの画面が怪しいよな」「やっぱクリアデータからなんじゃねぇの?」。チャットが始まって1時間2時間。かなりの速度で流れていくメッセージに、遅れないように自分も必死になって思いつく限りのことを試しては、打ち込んでいた。1時を過ぎた頃から、メンバー全員に疲労の色が見え始め、書き込みペースもめっきり少なくなっていく。
「今日は無理ですかねぇ」
「そうだね~。やっぱそう簡単にはいかないもんだね」
などという書き込みがなされ、1人2人と離席していき、みんなのテンションが下がってきたとき、メンバーのひとりが、
「出た!!!!」
と叫んだ!正確にはただ文字が表示されただけなのに、その声は紛れもなく叫び声で、僕を含め他のメンバー全員が色めきだつ。
「えええええどうやって?どうやって?」
「マジで!スッゲェェェおめでとーーー」
「歴史的瞬間だぁ!」
さっきまでちらほら、というペースだった書き込みが怒濤のように流れていく。まさに文字が洪水のようにスクロールしていく。「帰っちゃった人にも教えようよ」「ああでも今日のメンバーだけの秘密にしたいね」「すぐバレちゃうのかなぁ」。「今日は徹夜確定。今から裏面の攻略に入りま~す」・・・。
文字だけの友達。声を聞いたこともなければ、性別もわからない。その瞬間は誰にも予想できず、誰かが用意したものでもなかった。でもあの時ほどゲームをやっていて熱くなったことは、たぶんなかったと思う。
「つきましては一旦休憩をとって、○○時から再開します~」
まるですぐ横にいるかのような、まるで随分昔からの友人のような・・・。
「僕も参加します~」
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