シュナの旅
僕が中学生の頃、宮崎駿がチベット民話を元に描いた絵本。当時既にナウシカは存在していたので、これがそのルーツというわけではないが、とても素晴らしい色遣いで全てのページが彩色され、本人もアニメにすることが夢であったと語るだけあってその筆致は愛情と思い入れに満ちている。
僕は小説を読まないが、物語としてまとまりがある、起承転結がしっかりとしたお話は大好きである。今朝起き抜けに枕元の脇にあった鳥山明の「SANDLAND」を読み返してみても同じ思いを持った。
起承転結とは読んで字の如く、発端となる事件があり、伏線を張りつつそれを広げてゆき、ドラマティックなどんでん返しの後で、きっちりと収束する、ストーリーテリングの基本である。僕も自店の挨拶文を書くときは、なるべくそれを意識するようにしている。
※ホントはブログでもそうじゃないと、って思うんだけどなかなか(^^;)
映画で言えば1時間半、コミックスで言えば1冊という長さにその起承転結をしっかり封じ込めた物語はとても心地よい。通常2時間と目される映画において、「ちょっと短いな、」と思われる1時間半という長さは、その展開の密度の高さを寄り強く印象づける上で僕好みの尺だ。
コミックスでも、風呂敷を広げ重厚長大な物語になればなるほどスケールの代わりに何かが犠牲になっていく。別にそういう話が嫌いなわけではないが、1冊程度に上手く収めてある話はそんな長編にはない様式美のようなものがある。
※ただ、週間なり月刊なりでの連載をコミックス化するのが通例な現在のマンガ事情からは、なかなかそういった作品で完成度の高いモノは産み落とされにくいが。
シュナの旅は貧しい村に育った村長の子シュナが、ある日素晴らしい穀物の話を得、様々な障害を乗り越え、信じ合える連れ合いに出会い、ついにはその穀物を手に入れる話だ。
巻末で宮崎駿本人も語っていたが、今(1983年現在)の日本の事情ではこんな地味な話のアニメ化は難しいだろう。物語の多くはナレーション的に語られ、「絵の持つ説得力」が最後まで読者を引きつける仕上がりなのだ。
※この辺りが彼の非凡なる才能を感じさせたりもするけど。
アニメにしたところを見てみたい気もする反面、出来うる限りの表現技術を使って仕上げた一冊の絵本としての完成度は、当時アニメ化されたナウシカに失望を禁じ得なかった自分なんかには、「まぁコレはコレでこのままがいいかな、」などと思わせたりもするのだ。★★★★★(密かに満点!)
※ちなみに当時既に名声を得ていた氏の作品だけあってかなりの冊数が出回っております。ヤフオクでも150~300円程度みたいですし、興味があれば(子供さんがいてジブリアニメが好きな方なら)+送料+振り込み料を加えてなおあまりある価値があると思います。ただ本の大きさは文庫サイズなので、正直子供達と読むには小さいですけどね(笑)。
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