春風
いつもよりちょっとだけ早くホテルに入り荷物を預け再び食事でも、と部屋を出る。つい数日前までは裏フリースのジャケットを着ていたのに、昨日は日中の温度が5月並にまで高まり、コーデュロイのシャツ1枚でも十分なほどだった。
大阪の夜に星が見つからないのは空気が汚いせいか、それとも明日は雨なのかな。さっきまで担いでいた重たいリュックをなくした僕は、軽くなった足取りで夜の街を歩く。目的の店があるわけでもなく、誰と会う約束をするでもなく、僕はいつになく颯爽と夜の街を歩く。
専門的なことはわからないが、その夜の空気はいつもとは違っていて、なんだかとってもいい気持ち。寒がりの僕なのに体を通り抜ける風はちっとも冷たくない。
「春?」
怪訝そうに周囲を見渡しても、見える範囲にそれっぽい影はない。時刻はまだ6時を回ったくらいだったけど、日曜の夜だからか開いてる店もなく、ところどころに街灯が光る薄暗い夜の路地。体に染みこむ風がなんだか優しくなっていく。
「気持ちいいな」
まるで日本じゃないみたいな爽やかな肌触り。なんだか海外にいるみたいな気になって、おもむろに目なんか閉じたりして。気のせいかちょっとした植え込みの草木さえも、いつもより多めにマイナスイオンをはき出してるみたいだ。
煩わしいことを一切忘れて、ただその場で風と戯れる。時間にしてわずか数分の夜の散歩だけど、こんなに爽やかな気分にさせてくれることってあったかな。ちょっと考えたけど思い出せないな。まぁいいや。妖精だか天使だかが気まぐれに僕と遊んでくれたのかも。
何となく人通りの多いところに行きたくなくなって、近くのコンビニで弁当を買うことにする。最近太ってきたなぁなどと思案してるうちにすっかり妖精たちは姿を消してしまったけど、目を閉じると今でもあの風が心を吹き抜ける。ただ爽やかな、ただ心地よい、純粋な春風。
・・・でも翌日は大雨なんだな、これが(^^;。
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