河童のクゥと夏休み
「死ぬまでに見なきゃいけない一本」。そんな位置づけだった天才原恵一監督の作品。人間の子供と河童の子供、クゥの物語。
公開当初から傑作の誉れは高く、クレヨンしんちゃんで既に僕の中での実績も十分だった監督の作品であるにも関わらず、今日までずっと先送りにしてきたのは、ひとえに、
最後は悲しい別れで終わるに決まってる
という僕の思い込みからだ。現代によみがえった河童という存在が、そのまま普通に人間と暮らしていけるわけがない。絶対どこかでひずみが生まれ、別れが訪れるに決まってる。見る前からわかりきったその「悲しい物語」に、僕のテンションはずっと上げきれずにいて、氏の作品、それも傑作とあらば、見なければならないという思いとは裏腹に、「僕が好きになれない展開」の予測、例えば夏休みに一緒に遊んだり、ご飯食べたり、いろんなものを見たりと言った「二人で過ごした歴史」が、最後に崩れるだろうと思うだけで、
見ている最中も凄く苦しかった。
幸せなシーンが重なれば重なるほど、最後の別れがきつくなるに決まってる。おちおち笑ってみていられなくて、ある意味ストレスを溜めながら見てたと言っても過言じゃない。特に氏の「あっぱれ戦国大合戦」のように、死別を描いた物語が過去の代表作ともなれば、勢い本作にもその「死のニオイ」はかぎつけてしまう。きっとクゥとは死に別れてしまうんだろうという、もはや脅迫感にも似た懸念が、僕を捕らえて放さなかった。
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とりあえずネタバレを避けて結論的感想を書くとすれば、僕のその懸念は、少なくとも最後の終わり方に関してだけ言えば、杞憂に終わった。「つらい別れ」で終わるだろうという予測は、気持ちよくさわやかに裏切られ、見終わった後の感覚は、それこそ僕のブログで何度も書いている「ジュブナイル」や「グーニーズ」のようなジュブナイルストーリーに通じるもので、もしも僕以外に、「クゥはつらそう」という先入観、思い込みだけで、スルーしている人がいるとしたら、
見ても大丈夫だよ
と伝えたい。
ただ、だからといって本作が「子供向け」であるかと言えば、それもまた否定したい。というか、兼ねてから娘が「クゥは絶対見たくない」と言っていたのを裏付けるかの如く、
子供向きではない物語だったように思う。
シチュエーションや登場人物の心の機微、子供の子供らしい残酷さや単純さ、大人やマスコミの「至極当たり前な対応」は、理解のキャパが小さな子供には、正直情報量が多すぎて、むしろそれが逆に本筋として伝えたい部分をにごらせてしまうように思った。
ただ、それもまた微妙なところなのだけど、僕の様に「幸せなシーンすらつらく感じてしまう」ほどの先読みというか、思い込みで見るよりは、例えば小学校低学年くらいの子供が、何も考えずに「素」の状態で見る方が、むしろその場面その場面をストレートに受け入れることが出来て、結果、「ただ楽しかった」「面白かった」という感想に結びつく可能性も捨てきれない。小六~中二くらいの子供には重すぎるけど、小一~小三くらいの子供になら、「夏休みの楽しい映画」として捉えて貰えるかな、とも思った。
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ではなんで今日見る気になったかと言えば、
今日が雨で、今が夏だったから。
水を好む河童の話。夏休みの話。物語をもっとも楽しめるのは、そのシチュエーションにより近い環境に持って行くのが、たぶん一番いい。雨が上がれば蝉の声が聞こえてきそうな、梅雨間に見える青空のような、物語をよりストレートに感じられる季節。
今日見なければ、もう見る日はないという心構えで見た。
ぶっちゃけいつもの評価で感想を書いてしまうと、★★★くらいのもんであり、手放しでみんなにおすすめ出来るほどではない。家族愛はクレしん映画に通じはするけど、ギャグではないから終始気楽さはないし、例えば自然の川や山に対して多少なり思い入れがなければ、見ていても感情移入するのは難しいと思う。
ただ、例えば家族でキャンプに行ったり、子供の頃川で泳いだ記憶があったり、ちょっと気になる女の子につい悪口を言ってしまったりといった思い出があるような、「そういう世界観」を肯定出来る人が見る分には、★を一つ、ことによっては二つ加えてもいいかも知れない。僕には重すぎたけど(半分は思い込みのために)、天才が「描きたいことは全て描いた」という物語の完成度はやっぱり高かったし、見て損したと思うような話でなかったことは、間違いないと思うし。
最後に少しだけ反転してネタバレ感想を一言。全然大したことじゃないけど、読むと明らかにネタバレなので、見てない人は読まないこと。見てない人が読むと何のことか分からないと思うけど、もしその人がこの作品を見る機会を得たとき、楽しさが確実に目減りする内容だから。
「ゴリのネイティブな発音が凄くよかった」
原監督はこのあと「カラフル」だっけ?一本撮ってるけど、こっちはもっと重そうだから、正直見るテンションに持って行くのは、容易じゃないんだよな。
そう言えば来週末には細田守監督の最新作「おおかみこどもの雪と雨」が公開になるね。見る前のイメージだけで言えばクゥと凄く酷似したものを感じるんだけど、やっぱ見に行かなきゃだめかなぁ。思案中。あとメリダもちょっと思案中。
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