こないだのホコタテ
なかなか面白かった。「最強の接着剤vs最強ダンプ」。
ダンプ-ワイヤー-鉄板-接着剤-鉄板-ワイヤー-ダンプ
で左右に思いっきりひっぱって、接着剤が剥がれたらダンプの勝ち。ダンプが故障もしくは制限時間3分位内に剥がせなければ接着剤の勝ち。ワイヤーが切れたら再戦。
接着剤は瀬戸大橋やスペースシャトルにも使われている、まさしく世界最強の接着剤。メーカーが僕らにも馴染みのある「セメダイン社」というのはちょっぴり嬉しくもあるが、まぁプラモ用の接着剤とは当然違う。
クリーム色の粘性のある液体で、塗布し、圧着したあと、150度の熱で熱することでその接着力が完全なものになるという「なんちゃら520」というヤツ。パフォーマンスタイムでは、
溶接した箇所と接着した箇所で、溶接した箇所のが先に剥がれる
や、
鉄板に接着した箇所のあるワイヤーを使って、10トンのバスをクレーンで持ち上げても剥がれない
など、なかなかの強力さを見せる。つかこのままCMに使ってもいいんじゃないかというほどの接着力は、
まさしくガチンコで、この勝負に挑むに相応しい。
方やクローラーダンプは、以前「重機綱引き」でそこそこの成績
※優勝したかどうかは失念
を収めた猛者を用意。10トンの土砂を積んだ状態でも、ぬかるみをぐいぐい走っていく
スパイク内蔵ゴム製キャタピラ
が特徴で、何と今回の戦いに際し、通常のキャタピラよりも片側10cmも広幅なスペシャル版を用意。パフォーマンスタイムでは、
太さ60cmほどもある丸太を2台で引いてバッサリ真っ二つに折る
※一台が中央にワイヤー、もう一台がそのワイヤーを挟むように2カ所にワイヤー。
や、
廃車予定の車を、文字通り真っ二つに引き裂く。土の中に埋めた車を土ごと引き出す、
など、なかなかのパフォーマンスぶり。お約束通り識者の先生の意見も割れ、パネラーの回答もほぼ半々。確かにこれはどっちが勝つか見物。
仮にワイヤーが負けるとするなら、その結果はとてもわかりやすい。「ああ剥がれちゃうんだな」で終わりである。だが、ダンプが負ける場合は、
どうやって負けるんだろう
という気にさせた。もしワイヤーも切れず接着剤も剥がれない状態で、2台の超強力な力が、一気に加速してドスンと掛かった場合、
ダンプ同士が、→ \----/ こんな感じでウイリーみたいになっちゃうじゃないか、とか、
切れたワイヤーがもの凄い勢いで観衆の方へ飛んできたりはしないのか、とか。
お互いが名刺交換を終えたあと、いつも通りの軽口が交わされる。簡単に言えば「簡単に剥がれちゃいますけど」みたいなのと「大したダンプでもなさそうですね」みたいな会話が交わされる。そして開始時に接着剤側が、
「3時間熱して4時間の冷却が必要ですので、7時間お待ち頂きます」
と言ったあと、ダンプ側が、ちょっと鼻で笑ったんだよね。「7時間後ですか」と。
勝負はこの時点で付いていたのかも知れない。
ダンプ側は、この勝負に負けてもなんら傷つくことはない。強いて言えば「接着剤も剥がせないのか」と同業他社から揶揄されるのと、物理的金銭的なトラブルがダンプそのものに降りかかる可能性くらいだ。
※つっても一台5000万くらいはしそうだから、ガチで壊れちゃったらシャレになんないとは思うけど。
しかし接着剤側はそう言うわけにはいかない。国を相手にし、人々の安全を預かる要所にも、それも世界中で使われているのである。その過程が簡単ではないにしろ「剥がれる可能性がある」という事実だけでも、とても大きく(悪い)印象に残ってしまうだろう。7時間という長さは、この勝負に万全を期す接着剤側の「最低限必要なライン」だと考える。まさに命がけの勝負に挑む気構えの7時間なのだ。
両者の応援団が多数見守る中、
※ちなみに場所は、ダンプが最も力を発揮することが出来るという「コンクリート」の上。
勝負が開始された。
ダンプが急加速し、一気にワイヤーのたゆみがなくなったかと思うと、
一瞬で片側のワイヤーが外れた。
何が起こったか戸惑う面々。おそるおそる外れた箇所にカメラが近づいていくと、
ダンプのフックが根本の溶接部から裂け剥がれていた。
見ればその部分の金属の厚みはわずか1cmほど。ダンプ側の担当は、
「不本意ですが、負けです」と負けを認めたが、
僕的には、「そんなもんだったのか」という感じだった。そんな簡単に
※まぁ言うほど簡単ではないのかも知れないが。
壊れてしまうようなフックでこの大一番に臨んだのか、と。勝負はわずか2秒で決し、接着剤側の担当は心底安堵した表情で「ホッとしました」と笑みをこぼした。
「ぜひリベンジしたいですね」というダンプ側のコメントに、接着剤側は言葉を返さない。だが今度は間違いなく「壊れるんならダンプごと壊れるようなワイヤー接続」をしてくるはずだ。公衆の面前で、視聴率もそこそこあるテレビで、重機を代表して勝負したのに、
あんな無様な醜態をさらしてしまうとは。
負けるにしてももっと「本気の負け」が見たかった。というかホコタテの勝負の多くは、常にそういうものであったはずじゃなかったか。両者が、そして両社が、プライドと信頼を賭けて戦う。だからこそ面白く、熱いんじゃないのか。
まぁ識者を含め僕も含め、誰ひとり「ソコ」が壊れるとは予測してなかったわけで、そこまでダンプ側を責めるのもどうかとは思うけど、今回こういう結果が出た以上、ぜひとも次回は、
本当の意味でのホコタテ対決を見せてもらいたいなぁ
と思いましたね。お題自体はスゲェいいお題だったんだけどなぁ。残念。
| 固定リンク
コメント
クリスさん、こんにちは。
今回見て無いんですが、鉄骨構造の建築物に携わる者として、一言。
>溶接した箇所と接着した箇所で、溶接した箇所のが先に剥がれる
ここだけは、納得行かん。
これ、絶対に溶接した奴が下手糞だったか、溶接の種類の指定が不適切だったんだよ。
だって、構造体の溶接だと、溶接の定義では『母材と同等、もしくはそれより強い』ですよ。
ちゃんとした溶接がしてあるなら、溶接箇所じゃなく母材(この場合はフック等)が変形・破断するはずです。
投稿: じあんとー | 2013年8月 1日 (木) 09時27分
どもですじあんとーさん、とても痛快なレス、感謝です(^^。
確かに専門家からしたら、、、というか専門家でない僕でも、
あの溶接はちょっとズルいよな、、、
とも思いましたです(^^。もう少し具体的に書かせていただきますと、
※既に消去してしまったので、僕の「著しく当てにならない記憶頼み」になりますが、
鉄板は厚さ1mm~2mmほどで大きさは(雰囲気)3cm×15cmほどのもの。溶接はその板と板を「線で溶接」し、接着剤は3cm×3cmの面で接着しての実験でした。ですからその接着面積的にも既に結構なハンデというか、ひいきがあったのは否めないんですが、正直な話、
面で溶接しても、接着剤が負けたとは思いにくい感じではありました。
ですが、これもじあんとーさんのおっしゃるように、
溶接面(溶接点)がはがれるのではなく、万力で固定してある箇所から切れる、みたいな結果になったのではないかな、と。
まぁ実際にやった訳じゃないのでなんとも言えないんですけどね。
ただそれはそれとして、、、
僕のうろ覚えの知識で申し訳ないのですが、「溶接の定義=母材と同等、もしくはそれより強い」は、自転車には適用されませんよね?「構造体」というのが何を指すのかわからないのですが、やはり自転車が大破する際には、溶接箇所が破損した記憶がありますし、友人が、「フルチタンの自転車は、ムクからの削りだしでフレームを成型するので、溶接箇所はない。やっぱり溶接箇所があるとそこが弱くなっちゃうから。まぁだから異常に高いんだけど」と言っていた覚えもあります。
まぁ番組の溶接を養護してるわけじゃないんですけどね(^^;。
投稿: クリス | 2013年8月 1日 (木) 21時01分
クリスさん、こんにちは。
僕の言ってる構造体としての鉄部の溶接と言うのは、厚さ6㎜以上の鉄板(昔は9㎜以上)に適用される、完全溶け込み溶接と言うものです。
適用例としては、柱と梁とかですね。
要は接合部の母材を完全に反対側まで溶かして、完全に溶接金属で貫通させるものです。
自転車のフレームなどの溶接(ロウ溶接)はまた別で、さらに薄物(1.2㎜)でも自動車のフレームに対する板や更に溶接する金属(チタン(TIG溶接)やステンレス(MIG溶接)でも溶接方法が全く違います。
薄物の場合や、溶接部に母材と同等以上の強度が必要ない場合は、すみ肉溶接と言って接合部の母材の一部を溶融金属に置き換える方法がとられますので溶接部から破断するのだと思います。
投稿: じあんとー | 2013年8月 2日 (金) 15時19分
どもですじあんとーさんクリスです。
専門的な話になっていくと自分からっきしなのですが、とりあえず番組で取り上げられていたのは「構造体」ではなかったっぽいですね。まぁテレビの演出上、「溶接より強い接着剤」を見せたかったというのが真意でしょう。
自転車の溶接についても、僕に知識がなさ過ぎて「???」というのが正直なところです。「母材と同等以上の強度が必要」で、かつ軽量(チタン)で、コストを度外視する場合は、やはりムクからの削りだしになっちゃうのかなぁとは(お話を拝見した限り)思いました。
本筋とはそれますが、ウチのブログにはいろんな方が読みに来て下さってるのだなぁと思いますね。もし何か溶接する際には、ぜひじあんとーさんにアドバイスを求めたいな、と(本気で)思いましたよ(^^。
投稿: クリス | 2013年8月 9日 (金) 02時18分